Iさん(仮名・62歳女性・大阪府・元主婦)から届いた話。
『円天(えんてん)』──株式会社L&G(エル・アンド・ジー)が運営していた、電子マネー型の預託商法。健康食品と宝飾品の購入を通じて、400万円。会社は2007年10月に破綻、被害者およそ3万7,000人、負債約3,100億円超と報じられた。
2009年2月、代表者ら役員が特定商取引法違反・出資法違反容疑で逮捕。2010年に代表者への懲役18年の実刑判決が報じられている。
※本記事はIさんへの取材を中心に、社名・経営破綻・代表者逮捕・刑事判決の事実関係を当時の大手新聞社の報道に基づき補足しています。
専業主婦として20年、近所付き合いは長かった
Iさんが結婚したのは、20代後半。それから30年以上、専業主婦として家庭を支え、子も独立。夫は会社員、現在は自営業で店を構えている。
近所付き合いは、長い。スーパーで毎週顔を合わせる女性たち、町内会の集まり、近所のお茶飲み会──その輪の中に、10年来の友人がいた。
「彼女から聞いた話なら、まあ、聞いてみてもいいかな──そういう判断の入り口が、いちばん、信頼してしまっていたところでした」
2005年頃、梅田の説明会に誘われた日
2005年。知人女性から声がかかる。「梅田で説明会があるの、面白い話だから、一緒に行かない?」
会場は、梅田の貸会議室。参加者は約30名、Iさんと同年代の女性が中心。
「会場の雰囲気が、まず違和感がなかったんです。同じような年代の女性が、みんな熱心に話を聞いている。私だけが置いていかれている感じが、まったくなかった」
『円天は使えば使うほど増える』
説明の中心は、独自の電子マネー『円天』。
顧客がL&G加盟店で健康食品や宝飾品を購入する。購入額に応じて、円天ポイントが付与される。その円天ポイントは、運営側のルールで時間経過とともに『増加』する設計──そう説明された。
「使えば使うほど増える、と言われて、最初は意味がよくわからなかったんです。でも、講師の人が、何度も丁寧に説明してくれて。同年代の参加者も納得している様子だったので、自分の理解が遅いだけかな、と」
健康食品と宝飾品、1年半で計400万円
Iさんは1年半で、計400万円分の健康食品(サプリメント・健康飲料)と宝飾品を購入。家計のへそくり、専業主婦時代の貯蓄から、少しずつ。
夫には、「健康食品を、家族の健康管理用に」とだけ。宝飾品は、自分用とお祝い品用の説明をしていた。
「夫は私のへそくりの存在は知っていましたが、何にどれくらい使っているか、いちいち報告はしない関係でした。それが、結果としては、被害を大きくする方向に作用した」
2007年10月、円天ポイントが、ただの数字になった
2007年10月、株式会社L&Gは事業継続が困難となり、その後破綻。負債総額は約3,100億円超、被害者およそ3万7,000人と報じられた。
「円天ポイントが、加盟店で使えなくなった、というニュースを、テレビで見ました。最初は、加盟店側の不具合だと思っていた。本社の破綻だと知ったのは、その翌日でした」
手元にあった健康食品と宝飾品は、現物として残っている。ただ、円天ポイントは、ただの数字になった。
夫に告白した日、夫は怒り、それから黙った
破綻の翌週、Iさんは夫に400万円の損失を告白。
「最初、夫はかなり強く責めました。家計のへそくりとはいえ、夫婦のお金には変わりない、と。私もその通りだと思って、ただ謝るしかなかった」
怒りが収まった後、夫は黙った。それから消費生活センターへの相談に同行し、破産管財人への債権届出も一緒に。
「夫が黙ってから、行動だけが早かった。あれは、たぶん、家計を立て直すスイッチが、夫の中で入った瞬間だったんだと思います」
2009年、代表者逮捕の報道
2009年2月、警視庁は波和二(はわ なみじ)代表ら役員を、特定商取引法違反・出資法違反容疑で逮捕。2010年には懲役18年の実刑判決が報じられた。
「説明会で『円天は使えば使うほど増える』と言われた時、本当だろうか、と一瞬思ったんです。でも、知人がすでに何度か購入していたから、信用してしまった」
その判決のニュースを、Iさんは自宅で読んだ。夫と二人で。
現物の健康食品、まだ家にある
購入した健康食品と宝飾品の現物は、今もIさんの手元にある。健康食品は自家消費・家族への贈与で、少しずつ消化。宝飾品は、娘の結婚祝いとして渡したものもある。
「お金が戻ってこなくても、現物は使える。それだけが、唯一の救いです」
取材の最後に、Iさんはこう言った。
「近所付き合いの中で勧められた商品は、特に断りにくいんです。同じことを繰り返さないために、私は『近所の話は、必ず一晩持ち帰る』というルールを、今、徹底しています」
振り返り:3つの教訓
1. 『使えば使うほど増える』ポイントシステムは、その時点で出資法・金融商品取引法の規制対象になり得る。電子マネー類似の名称(円天・地域コイン等)でも、本質は変わらない。最近は暗号資産・独自トークンの形で再登場している。
2. 知人・親族からの紹介経由の購入は、契約書面の精査がより困難になる。10年来の知人だからこそ、契約前に第三者(消費生活センター・家族)に必ず確認してから判断する。
3. 現物(健康食品・宝飾品)が手元に届く構造でも、配当のロジックが『新規顧客の購入額』に依存している場合は預託商法の規制対象。現物の有無で、安全性を判断しない。