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ジャパンライフ社の磁気治療器に1,200万円預けた78歳・営業所セミナーから経営破綻までの話

手口:ジャパンライフ社の磁気治療器・預託商法(2014〜2017年に消費者庁業務停止命令/2017年12月経営破綻/2020年元会長逮捕)

被害額 ¥12,000,000-

Gさん(仮名・78歳女性・東京都・年金生活)から届いた話。

磁気治療器のレンタルオーナー制度に1,200万円。会社は、ジャパンライフ株式会社。2014〜2017年に消費者庁から複数回の業務停止命令、2017年12月の経営破綻、2020年9月の元会長逮捕──戦後最大級の消費者被害事案として大きく報じられた、あの事案である。

夫を10年前に亡くした、Gさんが独りで判断した数年間。本人が話してくれた範囲で、できる限り言葉を残しておきたいと思う。

※本記事はGさんへの取材を中心に、社名・処分情報・経営破綻の事実関係を当時の消費者庁公表資料・大手新聞社の報道に基づき補足しています。

夫を亡くした10年、判断はいつもひとつ

元・小学校教員。退職して20年、専業主婦として夫を支え、その夫を見送ったのが10年前。

東京都内の自宅で、ひとり暮らし。50代の子は、同じ都内の別の区。電話は月に2、3回、孫の用事で会うことはあっても、暮らしの細々したことは、Gさんが自分で動く。

「夫が亡くなってからは、お金のことは、全部わたしひとりで決めてきました。子に迷惑をかけたくない──その気持ちが、たぶん一番大きかった」

後の取材で、Gさんはそう言った。「たぶん」と添えるところに、本人の整理の難しさが滲んでいた。

2015年春、ポストの底に一枚のチラシ

2015年の春。新聞のあいだに、A4両面カラーのチラシが折り込まれていた。

表面の見出しに、「健康機器のオーナーになって安定収入」。裏面は、新宿の営業所までのアクセス地図と、無料セミナーの予約電話番号。

同じ頃、10年来の友人から声がかかる。「私も行ってるのよ、説明だけでも聞いてみない?」──同年代の女性、お互いの自宅を行き来する間柄だった人。

「友人が参加していたので、怪しい話なら、この人が止めてくれるだろう。そう、無意識に思ってしまったのかもしれません」
──契約から数年経って、子と契約書を見直しながら、Gさんはそう振り返った。

新宿の雑居ビル、机の上にコーヒーと和菓子

会場は、新宿の雑居ビルの一室。会議室にはコーヒーと和菓子。参加者およそ25名、その8割が60〜80代の女性。

講師の男性は50代、「元医療機器メーカー勤務」を自称。スーツ姿、丁寧な敬語、こちらの目を見て話す人だった。

「同年代の方たちに囲まれて、緊張がほどけました。むしろ、安心していたかもしれません」

「年金の利息より、圧倒的に有利です」

セミナーの中心は、磁気治療器のレンタルオーナー制度。

顧客が磁気ネックレスや磁気マットレスを購入する。買った商品は会社が預かり、第三者にレンタル。レンタル料として、年6%相当を顧客に支払う──仕組みとしては、そういう説明だった。

講師は、何度も同じことを繰り返す。
「銀行の定期預金や年金の利息と比べてください」
「高齢の方ほど、確実な収入が得られる仕組みです」

Gさんに提示されたのは、磁気ネックレス(1点約60万円)と磁気マットレス(1点約140万円)を含む複数点のセット。合計、約1,200万円。

「1,200万円という数字、最初は迷いました。でも、年金の利息が毎年何十万も入るなら、長い目で見れば取り戻せる──そう自分に言い聞かせていたんです」

夫が遺した遺族年金、退職金、貯金

1,200万円の内訳は、後の取材で次のように整理された。

夫の遺族年金の積立分が、約600万円。自身の年金から数年かけて貯めた預貯金、約350万円。退職金の残額が、約250万円。住宅ローン完済済の自宅は、担保には入れていない。

つまり、夫を見送ってから10年かけて積み上げてきた、Gさんの老後の余裕資金。そのほぼ全額だった。

営業所のスタッフが、自宅まで契約書を持参してきた。リビングのテーブルの上で、その場でサイン。

子には、「健康機器を買ったの」とだけ。金額も、内容も、伝えなかった。

迷惑をかけたくない、その気持ちが行き止まりだった

子に詳しく話さなかった理由を、Gさんはこう言葉にした。

「子も仕事が忙しい時期で、心配をかけたくなかったんです。それと──夫がいなくなった後でも、自分のお金は自分で運用できる、ひとりの人間として判断できる、というのを保ちたい気持ちもありました」

本サイトに届く高齢者の話に、繰り返し出てくる構造である。
「迷惑をかけたくない」が、結果として、最も遠回りな選択肢を取らせてしまう。

振込通知の最初の6万円、本当に安心していた

契約から1か月後。Gさんの口座に、約6万円。名目は「レンタル料」。

「あの振込通知を見た瞬間、本当に説明通りに動いている、と。あのときの安心感は、今でも、よく覚えています」

翌月も、その翌月も、同じ額。営業担当者からは、ときどき電話。「他の商品の追加もご検討ください」──上位プランの勧誘も繰り返されたが、追加購入だけは見送った。

月々の入金は、1年以上、滞りなく続いた。

2016年12月、新聞の見出しで、手が止まる

2016年の12月。Gさんは朝の新聞で、ジャパンライフが消費者庁から業務停止命令を受けた、という記事を見つけた。

「最初は、自分の契約とは関係のない記事だと思いました。でも、社名を二度見して、本文を読み始めて──手が、震えました」

記事の中身は、「特定商取引法違反(重要事項の不実告知・著しい事実不告知)」。業務停止は複数回、合計で9か月以上の累積処分。

その日のうちに、子に電話。何から話していいかわからず、3回くらい言い直したという。

翌週末、子が契約書を開いて、黙った

子は翌週末、実家に来てくれた。リビングのテーブルに、契約書類を広げる。

契約金額1,200万円。預けたはずの商品の現物は、所在不明。消費者庁の業務停止命令は、すでに複数回。

「子は私を責めなかった。というか、責める余裕もなかったのかもしれません。契約書を読み終わって、しばらく、黙っていました」

その沈黙が、Gさんにはいちばん応えた。

あの12月、入金通知が、もう来なくなった

2017年12月。ジャパンライフは東京地方裁判所に破産申立、その後、経営破綻。報道で公表された負債総額は約2,400億円超、被害者およそ7,000人規模──多くが高齢者だったと伝えられている。

Gさんの口座への振込も、その月で止まった。

「商品はちゃんと預かっています、と言われ続けて、結局、自分の目で一度も見ることはなかった。そこが、今でも、ずっと引っかかっています」

破産管財人、弁護士、書類の山

弁護士の助けを借りて、破産管財人への債権届出。今もまだ、配当を待っている。

本事案の最終的な配当率は、報道でも低水準と伝えられているという。Gさん自身も、「1,200万円のうち、戻ってくるのは数十万円かもしれません」と説明を受けた。

「夫が亡くなってから10年かけて貯めたお金が、全部消えてしまった、という感覚です」

そして、少しの間を置いて。
「ただ、自分が情けないとか、夫に申し訳ないとか、そういう気持ちは、少しずつ整理がついてきました」

元会長が逮捕された日のこと

2020年9月。警視庁生活経済課が、山口隆祥元会長を含むジャパンライフ役員らを、詐欺容疑で逮捕したと報じた。商品の実在性・レンタル先の実在性を偽って金銭を集めた行為が、立件対象とされた。

Gさんは、その報道を、自宅で、ひとりで読んだ。

「逮捕されて、ほっとした──とは、言えませんでした。ただ、自分が騙されたのは、自分の判断力が衰えたからじゃない、向こうが意図的にそうしていた。その事実が、少しだけ、気持ちを楽にしてくれました」

これからの時間を、娘と

Gさんは今、娘との同居を検討している。

1,200万円の損失で、老後の生活設計を組み直す必要が出てきた。独居を続けるよりは、家族で支え合う形のほうが現実的だと、本人も納得している。

「健康面は、特に大きな影響は出ていません。ただ、お金を預けた事実、自分が判断ミスをしたという事実は、精神的な負担として、ずっと残ります。それを抱えながら、これからの時間を過ごしていくんだろうと思います」

取材の最後に、Gさんはこう言った。

「私と同じような立場の方──夫や妻を亡くされて、ひとりでお金の判断をしている高齢者の方──に、私の話が届けばいいなと思います。判断する前に、必ず家族に話してください。今、いちばん伝えたいことです」

振り返り:3つの教訓

1. 「商品を買って会社に預ければ高利回り」型の契約は、商品の物理的な現物確認が必須。「預けたままレンタル中」と説明されて、自分の目で現物を確認できない時点で、警戒のスイッチを入れる。Gさんが一度も商品を見られなかった事実は、契約から数年経って気付いた、重い見落としだった。

2. 行政処分歴は、会社名で消費者庁・国民生活センターのサイトを検索すれば確認できる。家族と一緒に、契約前にひと手間。Gさんの場合、契約時には処分が始まっていなかったが、契約後にでも気付くタイミングはあった。

3. 高齢者を対象とした営業所セミナーは、家族不在の場での契約サインを、絶対に避ける。クーリングオフ期間内(連鎖販売取引は契約書面受領後20日間)に家族と契約書を確認する──このルールひとつで、Gさんの被害は、ぎりぎり止められた可能性があった。

─ 警告アーカイブ印 ─
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Gさん 78歳女性・東京都
¥12,000,000-
告発記録

この記録が、次の被害を1件でも止めますように。

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