Sさん(仮名・34歳女性・東京都・専業主婦・幼稚園児2人)から届いた話。
幼稚園のママ友から誘われた健康食品MLMに、150万円。気付いた時、自宅倉庫には未開封の商品が山積みだった。
「ママ友との関係を、ぎりぎりで守れた──それだけが、せめてもの救いです」
幼稚園のママ友、長女の年少クラスから
Sさんは、東京都内の幼稚園に長女を通わせる専業主婦。夫はサラリーマン、世帯年収は約700万円、子は2人で次女はまだ自宅育児。
「長女の年少クラスのママ友数名で、月1回のランチ会をするようになりました。同年代の女性、子育ての悩みを共有できる関係。本当に大切な時間でした」
『健康ママの会』、LINEオプチャへの招待
2024年の春。ランチ会の中で、ひとりのママ友から「健康ママの会」というLINEオプチャへの招待があった。
「子の食事・自分の体調・産後の体型──そういう話題が、毎日交わされる場でした。情報源として、本当に役立つ場だった」
3か月後、オプチャ内で、ある健康食品ブランドが紹介された。「コラーゲンサプリ、化粧品、ダイエット飲料」の3点セット、月額3万円のサブスク契約。
『使ってみて良かったら、紹介すれば収入になる』
紹介者のママ友は、こう説明した。
「私も最初は、自分で使うために買った。良かったから周りに紹介したら、収入になった。Sさんも、興味があれば」
Sさんは、まず月3万円で1か月試した。化粧品の使い心地は、悪くなかった。
「『これなら、自分も他のママ友に勧められるかも』と思った瞬間が、あの一線を越えた瞬間でした」
『上位プラン』への切り替え、初期費用50万円
1か月後、ママ友経由で運営側との個別面談。提案されたのは、上位プランへの切り替えだった。
「初期費用50万円で、商品の卸価格が下がる。紹介報酬率も上がる、と」
Sさんは、家計のへそくりから50万円を捻出。夫には事後報告すらしなかった。
3か月で在庫が、自宅クローゼットを埋め始めた
上位プランでは、毎月一定額の商品仕入れが必要だった。Sさんは月10万円ずつ、3か月で約30万円分の商品を自宅に発注。
「最初の月で、ママ友のうち2人に紹介できました。紹介報酬として、約2万円が入ってきた」
2か月目、紹介できたのは1人。3か月目、ゼロ。
「ママ友の輪の中で、私が『勧誘する側』になった瞬間に、距離が空き始めたんです。ランチ会の頻度も、目に見えて減りました」
クローゼットの商品、家族の自家消費でも追いつかない
3か月で自宅に届いた商品は、サプリ45袋、化粧品30本、ダイエット飲料200本。賞味期限内に自家消費するペースを大きく超えていた。
「夫がクローゼットを開けた時、商品の山を見て『これは何?』と聞かれました。あの時、初めて、自分が止まらなくなっていることを認めた」
夫への告白、150万円
2024年の秋。Sさんは、夫に150万円の支出を告白。
「夫は黙って聞いていました。それから、『ママ友との関係は、もう戻れるかわからないけど、MLMから抜けることだけは、すぐにやろう』と」
夫は具体的な手順を提案した。①運営に契約解除の連絡、②残在庫の買戻し交渉、③ママ友への謝罪の方針相談、④消費生活センターへの相談。この順番で進めた。
ママ友への謝罪、関係はぎりぎり保てた
Sさんは、紹介していたママ友2人に、直接謝罪。
「私が勧めたサプリは、自分で使う分には問題ないけど、紹介報酬目当てで関係を巻き込んだのは本当に申し訳ない」
ママ友2人とも、最初は驚いた様子だった。1週間後、片方のママ友から「私も、たぶん、自分で使うだけにしてた」と連絡。もう片方からは、約2週間の沈黙の後、「来月のランチ会、来てね」というLINEが。
「ぎりぎりで、関係を維持できました。あの謝罪を半年遅らせていたら、もう戻れなかったと思います」
消費生活センター、クーリングオフ期間徒過
Sさんは、東京都消費生活総合センターに相談。連鎖販売取引のクーリングオフ期間(契約書面受領後20日)はすでに過ぎていた。
中途解約規定で、未開封商品の買戻しは可能。Sさんは在庫の8割を運営に返送、約40万円の返金で和解。
「最終的な損失は、約110万円。家計には大きな打撃ですが、ママ友との関係を失わなかったことを考えると、まだ取り戻せる範囲だと、夫と話しました」
取材の最後に、Sさんが伝えたかったこと
「同じ立場の主婦の方に、特に伝えたい。『使ってみて良かったら、紹介すれば収入になる』──この一言が出てきたら、その時点で、MLMの構造に足を踏み入れています。自分で使うのと、人を紹介するのは、まったく別の行為です。紹介報酬が発生する仕組みに乗る前に、必ず夫やパートナーに相談してください。私のように、150万円とママ友との関係を、両方失いかけないために」
振り返り:3つの教訓
1. 『使ってみて良かったら、紹介すれば収入になる』はMLMへの誘い言葉の典型。自分で使う消費行動と、第三者への紹介行為は、法的にも社会的にも別物だ。
2. 連鎖販売取引のクーリングオフは契約書面受領後20日間。期間内なら全額返金、期間後でも中途解約規定で買戻しが可能(特商法)。被害に気づいたら、即日、消費生活センターに連絡したい。
3. ママ友・地域コミュニティへの紹介は、関係性の損失が金銭損失より重い。紹介する前に、必ず家族と、関係のない第三者に相談する。これが鉄則だ。