Kさん(仮名・50歳男性・福岡県・建材卸の自営業)から届いた話。
『海外CFDの運用案件、月利2.5%が継続している』──そう紹介されて預けた600万円。会社は、テキシアジャパンホールディングス株式会社。2014年から事業展開、海外CFD(差金決済取引)名目で出資を集めていた。
2019年2月、警視庁が代表者ら役員を金融商品取引法違反容疑で逮捕。集金額約460億円、被害者およそ9,000人と報じられた。2021年、代表者らへの実刑判決。
※本記事はKさんへの取材を中心に、社名・刑事事件の事実関係を当時の大手新聞社の報道に基づき補足しています。
建材卸、家族経営、年商8,000万
Kさんが自営業を継いだのは、父の引退と同時。建材卸の家族経営、年商は約8,000万円、従業員は4名。妻は経理を担当、子は高校生と中学生。
「現役で経営をしていると、自分の判断で動く時間が多いんです。サラリーマンと違って、運用判断も自分一人。それが、結果としては、被害につながる方向に作用した」
2017年、同業の先輩からの紹介
2017年。Kさんは、同業の経営者仲間から、海外CFDの運用案件を紹介された。
60代の先輩、付き合いは15年。地域の同業組合で長く顔を合わせてきた人。
「先輩自身が、既に約2,000万円を預けていると言うんです。配当も毎月安定して入っている、と。実例のある話だ、と」
その先輩からの紹介で、福岡市内のホテルでの個別説明会に参加することになった。
ホテル会議室、丁寧な説明、運用報告書
会場は、福岡市中心部のホテル会議室。運営側からの説明は、Kさん一人に対する個別形式だった。
「海外CFDトレーダーチームが運用しており、毎月の運用報告書も提供される」「元本保証ではないが、これまで一度も元本割れを起こしていない」
運用担当者は、海外の取引履歴とされる書類を見せながら、丁寧に説明を続けた。
「あの場で、運用の中身を細かく質問しなかった。後から考えれば、それが最大の見落としでした」
600万円、自営業の事業資金から
Kさんは、事業資金から600万円を切り出して、運営の指定口座に振込。契約書には、「海外CFD取引による運用」「毎月2.5%配当」「1年後の元本返却可能」という文言が記載されていた。
「家族経営とはいえ、妻には事後報告。経営判断として自分の判断で動かす、というのが、自営業を継いだ時からの暗黙のルールでした」
2年間、毎月15万円の配当が振込まれた
2017年から2019年初めまでの約2年間。Kさんの口座に、毎月、約15万円。月利2.5%相当の配当だった。
「配当が止まらない限り続ける、と判断していました。先輩にも、『安心して使えている』と報告していた」
2年間で受け取った配当総額は、約360万円。元本600万円のうち、実質的に60%が手元に戻った計算になる。
2019年2月、代表者逮捕の朝
2019年2月、警視庁はテキシアジャパンホールディングス代表の銅子正人氏ら役員を、金融商品取引法違反(無登録での出資集め)容疑で逮捕。
「逮捕の報道を見たのは、出社前の朝、テレビでした。前月、つまり2019年1月までは、通常通り配当を受けていた。逮捕の翌日、口座への入金が、はじめて止まりました」
報道では、集金額は約460億円規模、被害者およそ9,000人と公表された。
『海外CFDの実態が確認できない』
捜査の進展に伴い、海外CFD取引の実態が確認できないこと、運用報告書が虚偽であった可能性が高いこと、が報じられた。
「あの説明会で見せられた『海外の取引履歴』──それが、まったくの虚構だった可能性が高い、と知った時、自分の判断のどこに穴があったのか、整理に時間がかかりました」
2021年、代表者らへの実刑判決が報じられている。
元本600万円、配当で360万円、未回収240万円
Kさんが集計した数字は、こうだった。
元本600万円。受け取った配当の総額が約360万円。差し引きで、未回収の元本が約240万円。
「額面の損失だけを見れば、240万円。ただ、本来の元本600万円が戻ってこない、という現実が、いちばん大きい。受け取った配当も、結局は他の被害者の元本から回ってきていた──そういう構造の中で、自分が加担者だったかもしれない、という気持ちが、消えません」
事業資金の補填、銀行からの追加借入
事業資金から切り出していた600万円。Kさんは、即時に補填する余裕はなかった。
銀行からの追加借入で、運転資金を回す形になった。当面は事業継続に支障はないが、長期的な設備投資計画は、3年遅れの見込み。
「妻にこの状況を告白したのは、逮捕報道の翌日でした。妻は怒るより先に、銀行融資の手続きを始めていた。経理として、最初に動いた」
集団被害者連絡会、現時点で30万円の弁済
Kさんは、集団被害者連絡会に参加。現時点で約30万円の弁済を受領、残りは継続交渉中。
「数字としては小さい。ただ、被害者全体で連帯することで、刑事手続きの情報が共有される。それが、現時点での、唯一の心の支えになっています」
取材の最後に、Kさんが残した警告
「経営者・自営業者を狙った高利回り出資集めは、信用ネットワークを経由してくる。同業者・経営者仲間からの紹介ほど、契約書面の精査が後回しになりやすい。信頼できる相手からの紹介でも、金融商品取引業者の登録は、必ず金融庁のサイトで確認してください。そのひと手間だけで、本事案の被害は止められたはずです」
振り返り:3つの教訓
1. 『月利2.5%(年利30%)が継続している』訴求は、市場環境上ほぼ実現不可能。配当が継続している期間は、むしろ警戒すべき期間。出資法・金融商品取引法の規制対象になり得る。
2. 金融商品取引業者の登録の有無を、契約前に必ず金融庁の『登録金融機関等一覧』で確認する。本事案は、無登録での出資集めが立件理由の中核だった。
3. 同業者・経営者仲間からの紹介は、信頼関係が契約書面の精査を後回しにさせる構造を持つ。経営者だからこそ、契約前に税理士・顧問弁護士・金融庁登録の確認を踏むルールを作る。