Yさん(仮名・32歳男性・愛知県・IT会社勤務・独身)から届いた話。
「3か月で起業して脱サラ」を謳う高額コンサルに、280万円。Instagram経由、3か月間のオンラインプログラム、卒業後の起業実績はゼロ。
「あれは、起業ではなく、コンサル料を払うための3か月でした」。取材の冒頭、Yさんはそう振り返った。
独身の30代、毎日が同じだった
Yさんは大学卒業後、地元の愛知県でIT会社に就職。年収は約480万円、勤続8年、独身、一人暮らし。
「仕事は安定していました。ただ、毎日が同じパターンで、このまま定年まで続くのかな、と。30代になって、急にその感覚が強くなったんです」
そんな時期に、Instagramのおすすめ欄に表示されたのが、あの広告だった。
『元会社員が3か月で月収300万円』
Instagram広告のキャッチは、こうだった。
「元会社員が、3か月で月収300万円を達成」「あなたの今の仕事を、3か月以内に辞められます」
動画には、30代の男性が登場。スーツ姿で、自宅の書斎風の背景、ノートPCを開いている。落ち着いた話し方、丁寧な敬語、押し付けがましさはなかった。
「『この人、自分と同じ立場から脱出した人なんだ』と思いました。タップして、無料セミナーに申し込んだのが、最初の一歩でした」
Zoom無料セミナー、最後の20分の販売パート
無料セミナーは、Zoomで開催。参加者約30名、Yさんと同じような30代の男性が中心だった。
講師は、Instagram動画と同じ男性。1時間40分は、「会社員から起業家への思考転換」「3か月で何が変わるか」といった、抽象度の高い内容。
残り20分。突然、画面に有料コースの紹介。
「3か月集中プログラム、280万円。本日中の申込みで、30万円割引」
カウントダウンタイマー、参加者の感想スクショ、限定特典。Yさんがその場で申し込みボタンを押すまで、約8分だった。
280万円、貯金から一括
280万円は、Yさんが入社以来貯めてきた預貯金のほぼ全額。家族には事後報告すら、しなかった。
「独身で一人暮らし、誰の許可も要らない。それが、結果として、誰のブレーキもかからない、という意味だった」
3か月プログラム、Zoom録画15本
プログラムの中身は、こうだった。
週1回のZoom録画60分、合計15本。PDF教材80ページ、運営LINEでの質問対応3か月間。
内容は、「起業マインドセット」「自分のビジネスアイデアの見つけ方」「初期顧客の獲得術」。書店で手に取れるビジネス書の内容と、ほぼ重なる部分が多かった。
「3週目には、『これ、書店の本で済む話だったかも』と気付き始めていました。ただ、280万円を払った後だから、最後まで受講するしかない、と」
『あなたなら成功します』のLINE
運営LINEでは、定期的にYさんへのメッセージが届いた。
「Yさんの今の状況なら、3か月で確実に成功できますよ」
「他の受講生も、Yさんと同じ場所から始めて、月収300万円に到達しています」
「言葉自体は心地よかった。ただ、具体的な成功事例の名前を聞くと、毎回、『個人情報なので開示できません』と返ってきた」
修了直後、『次のステップ』80万円のオファー
3か月のプログラム修了直前。運営から、追加プログラムの案内が届いた。
「次は、実践プラン80万円。確実に月収300万円を達成するためのサポート付き」
Yさんは、断った。家計の余裕がなかったこともあるが、それ以上に、この段階で確信に変わった。
「『280万円払った人が、結果が出ないから、追加で80万円払う』──これが、設計された構造なんだと。気付くのが3か月遅かった」
修了後の実績、ゼロ
プログラム修了から半年。Yさんは、教材で推奨されていた『SNS発信から始める個人ビジネス』を、業務時間外に試した。
受注に至った案件、ゼロ。SNSアカウントのフォロワー約60名、収益化に必要な水準には、はるかに届かなかった。
「会社員を続けながら、副業として何かを始めるなら、280万円の教材は要らなかった。書店のビジネス書3冊と、無料のYouTube動画と、自分の時間だけで、同じレベルまでは行けたはずです」
消費生活センターへの相談、現在交渉中
Yさんは、愛知県消費生活センターに相談。特商法不実告知のルートで、現在交渉中。返金見込みは、約30万円前後。
「金額の問題より、3か月間という時間を取り戻せないことが、いちばん痛いです。あの3か月で、本気で別のことに取り組んでいれば、もう少し違う未来があったかもしれない」
取材の最後に、Yさんが残した言葉
「『3か月で起業』『3か月で月収◯◯万円』『3か月で人生が変わる』──このキャッチに反応しそうになったら、立ち止まってください。本当に3か月で人生が変わる仕事なら、その仕事を売るために、Instagram広告は出ません。本物のスキルは、Instagram広告では売られていない。これが、私が280万円で学んだことです」
振り返り:3つの教訓
1. 『3か月で◯◯』系の高額コンサルは、書店のビジネス書+無料コンテンツでほぼ代替可能。280万円を払う前に、関連の入門書を3冊読み、無料YouTube動画を10本見る。それで物足りないと感じたら、初めて有料コンテンツを検討する。
2. セミナー終盤のカウントダウン特典は、即決を促す圧力装置。家族や第三者に相談する時間を奪う設計。即決を促されたら、その時点で警戒する。
3. 『次のステップ』として追加プログラムを提示してくる構造は、段階的な高額化の典型。最初の支払いの段階で、『次』のオファーがあるかを質問する。